2012年01月24日

湖北 菅浦

2年ほど前、余呉湖に行った帰り道、琵琶湖の奥に小さな集落をみかけた。
時間がなくて、気になりながらも通り過ぎたのだが、先日、白州正子さんの『かくれ里』を読み返していてはっとした。あそこだ…。
「湖北の中でもまったく人の行かない秘境」と白州さんは書いていた。
かつての菅浦は、舟で渡るより他に行きようがない僻地だったそうだ。彼女は舟で渡ったとは書いていないので、取材に行ったのは道路ができてすぐの頃だろうか。

「つい最近まで、外部の人ともつきあわない極端に排他的な部落であったという。それには理由があった。菅浦の住人は、淳仁天皇に仕えた人々の子孫と信じており、その誇りと警戒心が他人をよせつけなかったのである。」 『かくれ里』〜湖北 菅浦〜

私の頭は妄想で膨張。
もう行くしかないし、無理な距離でもないのでまたしても奥琵琶湖へ。
それにしても、行けども行けども琵琶湖。この湖の大きさには何度でも驚かされる。じょじょに湖北に入っていく時の風景の変化にも心うばわれるし、何やらもの悲しくなっていくのも私好みである。

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そうして、やっと、たどり着いた。
しかし湖っていうのは、なんでこう繊細でロマンチックなのか。海と山しかなくて、大雑把でわかりやすい紀州から来ると、この異質さにやられる。昔話の世界に迷い込んだみたいで、地続きの現世にいるとは思えないのだ。路地を歩く老人の姿を見ても、湖底に棲むフナかなんぞの化身ではないかと疑ってしまっていけない。

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ところで、
遠藤周作さんも菅浦に魅了された一人である。

「やがてその湖の奥にたどりついた。二月の午後、入り江のようなその地点の周りの山々は白雪に覆われ、冬の弱い陽をあびた湖面は静寂で寂寞としていた。車からおり、コートのポケットに手を入れ、私は長い間、まるでスウェーデンかノルウェーのフィヨルドに来ているような思いだった。」   『万華鏡』〜忘れがたい風景〜


彼はこの地点を「菅浦」とは書いていない。明かしたくないので、暗示めいた書き方にとどめている。自分だけの忘れがたい風景として秘めておきたいという気持ちと、日本にまだこんな場所があることを伝えたい気持ちがせめぎあったのだろう。
最後の行に、「これから冬にかけてそこを一人で訪れる方は決して失望しないだろう」と遠藤さんは書いていた。
「一人で」のところを強調し、わざわざ傍点を入れて。

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posted by きたうらまさこ at 22:46| 旅のおはなし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月17日

福を呼ぶ鬼

15日の和歌祭シンポジウムは大盛況。演舞が終わって幕がしまる時、たくさんの観客が両手を頭上にあげて大きな拍手を送っていた。その時の表情がとても生き生きしていて、楽しそうで、満足げ。ヒトってやっぱり本質的に祭りが好きな生き物なんじゃないだろうか。忘れているだけで…。

           ↓写真は和歌祭の鬼。
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必要以上に祭り好きな私は、前日の14日にも奈良県五條市の「鬼走り」に行ってきた。シンポジウムの準備が夜までかかるかも、と思ってあきらめていたのだが、意外に早く終わったので。
たいへん寒かったのでしっかり厚着をし、途中、丸亀製麺でしょうがをたっぷり入れたきつねうどんを食す。450円とは素晴らしい。おしゃれなカフェより丸亀製麺!!と思わずにはいられない。

夜8時頃、五條の集落に到着。車をとめた公園から、鬼走りのある陀々堂(だだどう)までは真っ暗な道を20分ほど歩かねばならない。懐中電灯で足もとを照らしながら行くと、吉野川の水音が聞こえてきた。対岸の暗闇に、たき火の明かりがぼんやりと見えてほっとする。
橋をわたって竹やぶを抜けると念仏寺という小さなお寺があり、陀々堂の前にはたくさんの着膨れた人たち。みんなして鬼の登場をひたすらに待っている。私も群衆にまぎれて立ったまま待つ。雪がちらちら降ってきたけど、たき火があるからか思ったほど寒くない。火の粉が飛んで、コートに穴があいたと嘆いている人もいたが、私は火祭り用の穴あきダウンを着てきたから安心である。

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9時になり、鐘がならされる。僧侶たちがお堂の中で読経を始めた。現れた鬼は三人で、私の予想を超える大きな面と大きな松明だ。お堂の中で松明を掲げてポーズととるだけなのだが、生で見るとまさに鬼気迫ってくるものがある。屋根が、屋根が今にも燃え上がりそう。「なんで火事になれへんの?」と不思議に思うほど火の勢いが強い。

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いや、実際、今年は危なかったんじゃないかと思う。最後に一人の鬼が松明を落としたのだ。数人の水天役(かわせ)が飛び出してきて、幸いにも松明はすぐに拾われたが、危機一髪。なかなかスリリングで、常にテンションの低い私もやや興奮状態。

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ところで、聞くところによると平成10年の鬼走りの際に逆風が吹き、鬼がやけどを負うという事件があったそうだ。福を呼ぶ鬼なのに、これは何か悪いことがおこる予兆ではないかと心配する人もいた。その年、この地方に大きな台風が直撃し、多くの樹木がなぎ倒され、室生寺の五重塔も被害を受けた、という話もある。
今年の鬼たちは、大丈夫だったろうか。
帰り道に車を運転していると、珍しくロックが聴きたくなった。うまく説明できないけれど、火祭りはロックだと思う。


「鬼走り」の詳細はこちら。
http://www.city.gojo.lg.jp/icity/browser?ActionCode=content&ContentID=1143010218687&SiteID=1139107257399


posted by きたうらまさこ at 23:15| 旅のおはなし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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